「樽」「ポンスン事件」を読んだのがおよそ10年前。
本作から感じたことは、クロフツは風景描写が膨大で、読んでいて疲れるということだ。
戦前か戦後、クロフツ作品を妙訳の方が良いと評価されたこともあるらしく、これは的を射ている。
風景描写はそれなりに省略しても問題はない。
クロフツといえば本格物という印象があったが、本作は本格は本格でも、殺人は副次的要素であり、本題は密輸の方法を解明していくことにある。
事件の捜査やその過程をコツコツと描写するところは、あいかわらずクロフツらしい。
トリックというトリックはなく、謎の解明も地道でスローテンポだが、読みごたえは十分にあった。
ただ、私はクロフツだからという理由だけで難なく読むことができる性分だが、そういったこだわりがなければ、本作は退屈に思うかもしれない。
せっかくのクロフツをそのように定義づけてしまうことはもったいないことである。
さて次に何を読もうかと迷っていると、徳間書店から梶龍雄「龍神池の小さな死体」が復刊すると知り、度肝ぬいた。
これはとんでもないビックニュースだ。
梶作品はその多くが絶版であり、入手は困難を極める。
私が所持している数も10に及ばない程度だ。
徳間書店に限らず、最近ではリバイバルブームであるのか、昭和の名作が次々と再刊されており、喜びを禁じ得ない。
しかし、私が所持している梶作品のうちの一つが、ケイブンシャ文庫版「龍神池の小さな死体」なのである。
よりにもよって...。
奥付を調べたところ、講談社で昭和54年刊行、ケイブンシャ文庫版が昭和60年だ。
これは勝手な想像だが、ケイブンシャ文庫版は版を重ねることはしていないだろう。
つまり昭和60年初版第一刷しか存在しないのではないか。
そうなると、リバイバルされた徳間文庫版は、およそ37年ぶりということになる。
半世紀とはいかないが、平成をまるまる経ての再版に感慨深くもなる。
話を戻すが、新装版で出たことはめでたいが、自分が所持している貴重な作品のリバイバルに、実は胸中は複雑である。
ケイブンシャ文庫版はこのまま手元に残すのだが、再版によりレアリティが下がってしまったということになる。
うれしいような悲しいような、この心境はコレクター共通であると信じたい。
だが、次に読む作品は「龍神池の小さな死体」に決まった。
いつの日か徳間文庫版を見かけてしまった時のショックを和らげておこう。
まさかの梶龍雄作品のリバイバルに話題が釣られたが、実際は別のことを書きたいと考えていた。
それは次回にする。
入荷。
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