土屋隆夫は好きな作家の一人だが、この短編集は感心できないところがありイマイチだった。
その理由はどんでん返しという構図にある。
解説を見ると、作者の目指す理想の短編としてどんでん返しを挙げている。
序盤に無関係そうな伏線を蒔いておき、最後にそれを含めた意外な真相で読者の予想を裏切る構想を基本としているようだ。
しかしこのどんでん返し、意外な結末を描写するためならいくらでもパターンが作れてしまうのでは?という欠点がある。
事件の流れを書き、犯人の正体が明らかにされた後、実は...という流れが、本書における基本的な流れだ。
だがこの流れは、最後にもうひとひねりすることで、安易に結末を変えることができてしまう。
どんでん返しがあることにより、読者は結末の予想をすることが困難になるが、予想することすらできない真相を最後に出されても、どうしても安っぽくなる。
本書のイマイチな部分は他にもある。
「淫らな証人」では、最初に書かれた女学生殺人事件の犯人が分からずじまいである。
展開はその事件後、容疑者として挙げられた男を中心とした事件に発展するが、その容疑者にはアリバイがある。
事件÷推理=解決をモットーとしている土屋隆夫らしからぬ作品である。
さらに個人的なことを言えば、なぜか若い女がくたびれた中年サラリーマンと肉体関係になることが多く、これはいただけない。
若い女が中年の男に惹かれる理由がわからず、これが結局のところ殺人へと発展するのだが、いわばとってつけたような犯行動機でしかない。
また、作中に出てくる人妻は全員不倫している。
別に不倫がどうこうではないが、作中の多くでこの要素が出てくるため途中で飽きてくるのだ。
ああ、またこのパターンか、と。
男は女遊び、女は不倫、これがすべての作品に多かれ少なかれ含まれている。
本格推理における犯行動機を吟味する必要はないが、短編集という形式上、同じような犯行動機と展開を連発することは好ましくない。
イマイチとは書いたが、面白く読めた部分はある。
本書収録作品には倒叙物が多く、コレが好きな私としてはありがたいことだ。
「淫らな骨」「正当防衛」あたりはそうではないが、謎の解明を短編でするには、どうしても倒叙物に頼らざるを得ない。
これは作者と親交があった鮎川哲也も同じ意見だったはずである。
両者の倒叙物で共通している点は、終始犯人側の視点から展開する、という点である。
こうすることで、短い枚数で本格推理が書けるそうだ。
こういう工夫が、この二人の作家の優れたところだ。
「肌の告白」は以前に「ミステリーの愉しみ」で読んでいるが、改めて読んでみた。
この作品にも上記で書いた、女遊びが故の殺人という動機があるが、犯行が露呈する場面とタイトルとがリンクしており、再読でも面白く読めた。
やはり土屋隆夫は優れた推理作家と改めて感じた。
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