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雑文

停まった足音、なんと魅力的なタイトルだろうか

ようやくA・フィールディングの「停まった足音」を読み終える。
この作品、内容が複雑で緻密なため、かなり読むのが難儀だった。
どれくらい複雑なのかというと、メモをとらなければ絶対理解できないほど。
メモなしなら、覚えてねーよのオンパレードといってもいい。
最初50ページほど読んだ後、メモを用意して改めて最初から読み始めたぐらい気合を入れて挑んだ(?)のは久しぶり。
わかりやすく例えるなら、ジョージェット・ヘイヤーのグレイストーンズ屋敷殺人事件ぐらい緻密で複雑だった。
なんとわかりやすい例えなのか。

あと、章と章の間が長いため、適当なページで栞を挟むことができない。
これが難儀さに拍車をかけることになる。
じっくりと読み進めていたが、最後の50ページぐらいは一気読みだった。
これはやばい、とにかくやばい。
幻の名作なだけはある。

海外の作品は制度や風習が日本と異なるため、読んでいる最中に色々と気になる部分が出てくるが、細かいことを気にしてたら読むことはできない。
例えば本作では、三マイル内の領海の船上で行った婚姻は正式なものと認められるという箇所がある。
日本での婚姻は、市役所や区役所といった定められたところに、届け出を行うことで成立する。
婚姻の効力は、1.本人同士の積極的な意思があること(形式的なものではなく本心をもってという意味)、2.届け出(届け出た地域で新しく戸籍が作られる)で生じるため、結婚式のような形式的な要素は不要とされている。

しかし、この部分で引っかかっていたら先に進めない。
そのうえ、いちいち調べて正しいかどうかを確かめるのも億劫である。
そこまでその制度に興味もない。
なので、そういうものなんだ、という認識で読んでいくことになる。

それでこの、そういうものなんだ、で流してしまう部分を、本作では最後にうまく処理していて感心した。
本作が最初に翻訳することがきまったのが1935年で、21世紀を過ぎてからの70年近く、一度も翻訳されたことがないといういわくつきの作品なのだ。
なんでこんな名作を翻訳しなかったんだと、疑問に思えるほど完成度が高い。
本作に言及した作家は、ヴァンダイン、江戸川乱歩、鮎川哲也という、巨匠クラスのレジェンドばかりだというのに。

ただあの結末だと、そこに至るまでの緻密で晦渋ともいえる論理性との折り合いが取れてないような気がする。
しかしまあ、そんなことは些細なほど本作は素晴らしいものだった。
フィールディング万歳。
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