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雑文

この身一つなれど、

角川文庫で出ている古め作品が収録されたアンソロジーから、吉備津の釜(日影丈吉)と私はだれでしょう(川辺豊三)を読んでみる。
日影丈吉はある程度の名があるからともかく、川辺豊三は結構珍しいと思う。
この作家を知ったのは、別の本の解説で中島河太郎が述べている一文からだったと記憶しているが、そのような作家は大勢いるため、この作家も気になる作家の一人ということになる。
今は別の本を読んでいる最中だが、短編だから気兼ねなく読むことができるのがアンソロジーのいいところ。

「吉備津の釜」は本格推理ではないが、資金繰りに悩む主人公がパトロンを紹介される前半と、戦前戦後の思い出を懐かしむ中盤を経て、急に謎が提示され瞬く間に解明されるという終盤からなるテンポの差が激しい作品。
事件が発生して探偵が登場して捜査してという、推理小説特有のセオリーに本作はとらわれてはいないが、かといって推理小説という分野から遠ざかることなく遠目から尊重している。
こういう作風はお決まりのパターンがないため、奇妙な結末につなげるまでを思案するのはかなり難儀なのではないか。
ミステリーとしての技巧面だけでなく、小説を読ませるという技術について考えさせらた作品。

「私はだれでしょう」は、とある令嬢に宛てられた6枚の奇妙な手紙から端を欲するウェットに富む作風。
シチュエーションがかなり限定されるところがあるが、謎に迫る場面をじっくりと描写してくれたため、理解しやすいうえに本格推理としての配慮も忘れない作者には好感が持てる。
手紙の内容に嘘がある可能性を示す場面があるが、探偵役がそれを否定するという点も本格物としては重要である。
本格推理において、何かを否定する論理よか、説得力のある肯定の方が重要である。

作中の手紙に虚偽の内容を示す理由がない。
結末が少し急ぎすぎたような印象もあったが、6枚目で唐突に手紙が途絶える理由も面白い。
ユーモアも行き過ぎれば悪趣味だが、本作はそれに当たらず小気味よい印象を残している。

入荷。

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